歴史の流れを噛み砕いてみた

エンタメ要素をめいっぱい取り入れて、戦国や幕末の流れを、わかりやすく、ざっくりとお届けします。「超現代語訳戦国時代」という書籍も出版してますので、よければご覧ください。

【エモい先生とアドバンス大名】

幕末エピソード3となります。

本編に入る前に一つ注意点が。

幕末には、本名の他に"通称"や"雅号(がごう。風流な別名)"など、複数の名前を持つ人が、いっぱい出てきます("松陰"や"海舟"も雅号です)。

ですが、話の流れを理解してもらうことを最優先に考えて、ここではその人物の表記を、"一番有名であろう名前"で統一させていただきます(例外もありますが)。

すごく簡単に言うと、その都度「この人はこのとき、こう名乗ってました」って書くのがめんどくさいんです。ごめーんね。

しのごの言いましたが、前回のおさらいをやらせていただきますね。

ペリー、お手紙の答えもらいにもう一回日本にくる。
 ↓
で、日米和親条約結ぶ。
 ↓
外国来るのに備えて、阿部さん"安政の改革"で頑張る。
 ↓
でも、いろんな外国と"和親"結ぶことに。
 ↓
アメリカから今度はハリスさん登場。
 ↓
ハリスさん、将軍と会って、幕メンにロングスピーチ。

 

今回は、ペリーがやってきた前後、西日本に現れた"2人の賢者"の話から始めていきたいと思います。

1人目は、幕末、明治に活躍する人材を何人も育てた、長州(山口県だよ)の賢者、

その名も

吉田松陰(よしだしょういん)

教育者のイメージが強い吉田松陰

一体どんな人か、まずは前菜を召し上がってください。

あるとき、2人の友人と東北に行くことを計画した松陰。

当時、旅をするには自分とこの藩の許しが必要なんですが、出発日が近付いても長州藩からの許可がなかなか下りません。

友人の1人は、兄の仇討ちのために旅立つというのに……。

でも、勝手に旅立ったら、"脱藩(だっぱん)"っていって、藩を抜けるとみなされ、スーパー重い罪になっちゃう。

だからこの選択肢はなしです。

さて、ここでクエスチョン。

このとき松陰が取った行動とは?

A.友人に言って、出発日をずらしてもらう。
B.自分は旅に行くのをやめる。

…………では、正解の発表です。

吉田松陰「脱藩してきた」

C.でした。

宮部鼎蔵(みやべていぞう。松陰のお友達)「脱藩!!!?」
江幡くん(えばた。2人のお友達)「マジでか!?」
松陰「東北行くのはこの日って決めたろ。江幡くんが仇討ちするためなんだからズラせないよ! なぁ!」
江幡くん「お、おぅ……(ちょっとひいてる)」

友との約束を優先させるためには、犯罪者にもなる男。

国のルールより、自分の信念。

プライスレス(余談ですが、江幡くん、このあと仇討ちやってません)。

前菜が、かなり脂っこくなってしまいましたが、情熱をアクティブでくるんで脱藩のソースをかけたお味はいかがだったでしょうか?

それでは、ここからメインディッシュの連続をぶち込んでいきます。

黒船が日本に来てからの松陰さん、佐久間象山(さくましょうざん)ていう師匠の教えもあって、ずっとこんなことを考えていました。

松陰「日本が力をつけて攘夷をするためには、まず外国をこの目で見ないと……。よし、黒船に乗って海外へ渡ろう!」

立派な密航です。

このときの法律は、日本人が勝手に海外へ行くと大いに死刑。超がつく大犯罪。

にも関わらず……

松陰「ロシアの船きてるー! 乗るぞーー!!」

乗ろうとします。ガチなんだもの。

ただ、ロシア船はすでに出航しちゃってたから失敗。

なんとか死刑にならずに済んだのでした。

と思いきや……

松陰「ペリーと黒船が帰ってきたー! 今神奈川いるぞーー!!」

乗ろうとします。ぜーんぜんあきらめない。

しかし、ここでも失敗。

またもや犯罪者にならずに済んだのでした。

松陰「黒船、下田に移動したぞー!!」

うん、乗ろうとします。多分乗るまでやめない。

なんと黒船を下田まで追いかけ、結果、

松陰「乗れたーーー!!!」

乗ったんです。

ペリー側の人「………で、何しに来られたんですか?」
松陰「僕と金子くん(松陰さんの弟子)をアメリカに連れてってください! 世界を知りたいんです! なぁ金子くん!」
金子くん「はい!」
ペリー側の人「……連れて行ってあげたい気持ちはあるんですが、せっかく結べた条約がこじれる可能性あるんで、あなたたちを連れて行くことはできません」
松陰「で、できない? な……そこをなんとか! なぁ金子くん!」
金子くん「はい!」
ペリー側の人「ごめんなさい。無理なん…」
松陰「乗ってきた小舟も流された!そうだよな、金子くん!」
金子くん「はい!」
松陰「小舟の身元を調べられたら、僕たちが渡米しようとしていたことがバレてしまう! バレるな、金子くん!
金子くん「はい!」
松陰「そうなれば首を斬られてしまう! 斬られちゃうな、金子くん!」
金子くん「はい!」
松陰「だから、連れて行ってもらう以外、道はない!!」
金子くん「はい!!」
松陰「呼んでないぞ金子くん!!」
金子くん「はい!!」
ペリー側の人「…………………不憫ですがムリです」
松陰「金子くーーーーーん!!」
金子くん「はーーーーーい!!」

陸に送り届けられ、覚悟の上で下田奉行所に自首する2人。

しかし、逆転ラッキーが起こります。

幕府のエラい人に、松陰さんの言い分が聞き届けられ、なんと死刑は免れたのでした(ペリーさんたちは、松陰さんのその後を心配していたみたいです。それに、『日本の法律では、大罪かもしれないけど、自分たちから見れば、むちゃくちゃ褒めるべき好奇心の表れだ。知識欲や探究心を持っている日本という国の将来は、可能性を秘めていて、有望だ!』的なことも言ってます。ほめられたー)。


それでも罪は罪。

密航先生ロック吉田(松陰)は、長州へ帰され、野山獄(牢獄だね)ってとこへ入れられてしまいます。

やはり、囚人生活は、彼の体と精神をボロボロにむしばん……

松陰センセー「やったー!! 大好きな読書や執筆がたくさんできるー!」

ちょっとはしゃいでました。

プリズンライフを、エンジョイの方向に持っていき、さらに、

松陰センセー「本おもしろーい! 誰かとしゃべりたーい!」

と、なり……

読書で吸収した知識や自分の考えを、他の囚人にしゃべり始める。
 ↓
最初は「なんだコイツ……キモっ」と思っていた囚人たちも、だんだん「おもしろいかも……」という反応に変わる。
 ↓
囚人たち、松陰センセーのお話の虜に。まさかの、見張りの役人までもが、松陰センセーの生徒になる。
 ↓
しばらくすると、今度は逆に「え! あなたは詩の才能があるんですね……僕に教えてください!」とか、「あなたは字がキレイですね……教えて!」と、松陰センセーの方から、他の囚人に弟子入りしちゃう。
 ↓
みんなが、生徒でもあり先生でもある状態になっちゃう。その結果……
 ↓
牢獄が学校に変わっちゃった。

松陰センセー、学ぶ楽しさと教える喜びを、同時に体験できるという、誰もみたことのないニュースクールを作っちゃったのでした。

これは、長州の明倫館(めいりんかん)という学校で先生をしていた経歴もデカかったんじゃないでしょうか。

ただ、松陰さん、どこまでいってもフツーじゃないというか……。

先生に就任した年齢が……

9歳です。
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今でいう、小学3、4年生で、もう教える側……。

想像してみてください。

子供を教えてる、子供の姿。

"大人が絶滅した世界"という設定の、アニメや小説みたいな世界観です。

さらに、11歳のときには、藩主(殿だよ)の前で講義を行ってます。

現代なら『私の町のスーパーキッズ』って感じで、確実にTVに出てます。

そんな天才少年が成長し、囚人たちに、学ぶ楽しさを伝え、生きる喜びを与える……。映画だったら、

「奇跡が降り注ぐ場所 ――松陰先生と過ごした365日――」

なんてタイトルで上映されそうな出来事でした(チープに仕上がってしまいました)。

やがて、野山獄を出ることになった松陰センセーは、叔父さんがやっていた塾を受け継ぐことに。

その塾の名前こそ、

松下村塾(しょうかそんじゅく)。

幕末、明治の超有名人たちを輩出した、あのミラクルスクールです。

幕末のひな壇「なんでそんなに優秀な人たちが育ったんですか?」
池上さん(みたいな人)「いい質問ですね。まず、松下村塾では入塾希望者の身分や年齢は問いませんでした。さらに、塾には何時に来てもいいし、何を学んでもいい。生徒が塾を訪れた瞬間が授業のスタートだったんです」
ひな壇「いろいろ自由なんですねー! で、どんな授業を?」
池上さん「いい質問ですね。松陰さんは講義の他にも、生徒に本の一部分を読んで来てもらい、それについての意見を発表してもらったんです。そこから、みんなでディベートへ発展するという授業もやっていたんですね。これは、現代で『受ける授業じゃなくて、自分から進んで学んだ方がいいんじゃねーか?』って取り入れられてる、アクティブ・ラーニングとおんなじやり方です」
ひな壇「スゲー!! で、生徒とどう接っして……」
池上さん「いい質問ですね。松陰さんは……」

1回引き取ります。

そんな松下村塾からは、

久坂玄瑞(くさかげんずい。このあとちょー登場)
高杉晋作(たかすぎしんさく。メチャ有名)
伊藤博文(いとうひろぶみ。初代内閣総理大臣だね)
山縣有朋(やまがたありとも。『日本陸軍の父』だって)

に代表される、たくさんの優秀な若者が登場し、幕末の世を舞台に大活躍します。

「偉人がこの中から出る!」と宣言し、すべての生徒の長所を必ず見つけた松陰。

入塾を希望する者が「教えてください」と言うと、「教えることはできないが、私もあなたと一緒に学んでいきたい」と答えた、彼の姿勢や愛情こそが、この塾最大のテキストだったんではないでしょうか(気の利いたこと言えたと思ってます)。

 

続いて、長州からさらに離れた"薩摩(鹿児島あたりだよ)の賢者のご紹介。

薩摩の藩主さんは

島津斉彬(しまづなりあきら)

という人です。

幕末の時代、「勢いあるね!」「経済力も政治力もあるね!」って感じの藩を

雄藩(ゆうはん)

と呼んでいました。

そんな雄藩の中でも、特にまわりから一目置かれる大名が、4人いたんです。

ドドーーーン! 薩摩藩 島津斉彬
ドドーーーン! 福井藩 松平春嶽(まつだいらしゅんがく)
ドドーーーン! 土佐藩 山内容堂(やまうちようどう)
ドドーーーン! 宇和島藩 伊達宗城(だてむねなり)

この4人を

幕末の四賢侯(しけんこう)

と言います(ワンピースの四皇みたい。かっけー)。

斉彬さんは、この4人の中でも断トツにすごかったんじゃないかといわれる人物。

同じ四賢侯の春嶽さんも、「大名の中でトップだよ。自分も含め、他の誰も敵わないよ。うん」と、のちに語っているくらいなんです。

じゃ具体的に、斉彬さんの一体何がスゲーのか?

島津斉彬「やっぱ海外の技術とか大砲とか、ほしーよなぁ」
家臣「ま、そーっすねー。仕入れたいっすけどねー。ムズいっすよねー」
斉彬「てか、自分たちで作ればよくね?」
家臣「そりゃ作りたいすけど、工場的なものがないと無理ですよー。日本にそんなとこねーし」
斉彬「だから、工場から作ればいいんじゃん」
家臣「………え、そういうこと!!!?」

工場、作っちゃいます。
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なんと"海外式の工場群"を、薩摩の中に作っちゃったんです。

言ってしまえば、日本初のコンビナート

溶鉱炉(ようこうろ)や反射炉(はんしゃろ)っていう、鉄を造る設備を造って、それで大砲造っちゃう。

軍事品や産業品なんかもこの工場で作り、ついには……日本初の蒸気船もこしらえてしまうんです。

国を豊かにしたいなら「元から作っちゃえ!」というこの発想、

規格外です。

もう、島津テクノロジー斉彬という、ミドルネームが入ってもおかしくありません(おかしいです)。

この"斉彬スーパープロジェクト"のことを、

集成館事業(しゅうせいかんじぎょう)

と言いました(ちなみに、「旧集成館」って名前の建物は現在も残ってて、国の重要文化財として指定されてるよ。で、なんと世界遺産にも登録されとります。スゲー)。

さらに、斉彬さん、人の才能を見抜く力もスゴかった。

幕末ヒーローの中でも、知名度抜群の"あの人"のことを見つけてるんです。

身分の低かった"その人"の能力を見出し、熱心に教育し、斉彬さんの手足となってすこぶる働いた人物。

薩摩が生んだ幕末のちょー有名人と言えば……

もうお分かりですね。そう、

西郷隆盛

さんです。

斉彬さんを尊敬し、彼からいろんなものを吸収した西郷さんの活躍は……coming soonです。

 

薩摩や長州で、優秀な人材が育ち始めた話はいったん置いといて、ここからは

『ハリス・バックフーとアズカバンの貿易』

の続きを。

スーパースピーチで十分な手応えを感じたハリスさん。

そのまま江戸に残り、返事を待ってたんです。

すると、幕メンから……

まさかの音沙汰ゼロ。

ん?

スピーチ刺さったんじゃないのか?

ナンダコレハ? 

一体今、何の時間なんだ……?

しびれを切らせたハリスさんは尋ねます。

ハリス「あのー……例の件どうなってます……?」
幕メン「例の件?」
ハリス「私のスーパー大演説」
幕メン「あーあれね! あれ、響きましたよー! 今ね、いろんな人に意見を聞いて返信待ちなんです。少々お待ちください」

てな感じ。

そして何度目かの催促の日。

ハリス「あの……まだですか?」
幕メン「あ、今返信待ちで…」
ハリス「それ聞いたって(イラッ)。ではいつ返事をもらえるんですか?」
幕メン「こればっかりは……えぇ。日本は大事なことがあると、長い話し合いをしてようやく答えを出すんです。ハハッ。これは昔からある文化で、石橋を叩いて渡るというか……英語だとなんて言うんだろ? オランダ語ならちょっとわかるけど、英語だとちょっとわかんな…」
ハリス「バカタレが!!!」
幕メン「!」
ハリス「これだけ人を待たせるなんて、侮辱するにもほどがある! 丁寧なのは言葉だけで、誠実さのかけらもない! もういい、下田に帰る! どこかの国が艦隊引き連れて脅して来て、初めて後悔しろ!!!」
幕メン「ごーーめーーん! すぐなんとかするから~。ごーーーめーーーん!!」

ハリスさんの剣幕にヘタッた幕府は、すぐに交渉を開始。

幕府の優れたオジサン 
岩瀬忠震

が中心となり、時には議論、時には駆け引きを繰り返し、むーちゃくちゃ細かく話し合うこと14回……。

全部で14ヶ条のお約束が決定します。

その中でも、「お願い!これは知っといて!」ってやつがこちら!

1、日本はワシントンに外交官おいていいよ。アメリカは江戸に外交官おくね。

3、下田、函館にプラスして、神奈川、長崎、新潟、兵庫の港開いてね。江戸と大坂は市場開いてね。開いた港にはアメリカ人も住むね。お役人さんとか入れない自由な貿易しよー。

5、外国のお金と、日本のお金は、同じ種類・量なら通用することにしよー。金は金と、銀は銀と交換できるってことね。

6、日本人に犯罪やっちゃったアメリカ人は、"アメリカの法律"で裁くからね。アメリカ人に犯罪やっちゃった日本人は日本の法律で裁いてね。
("関税率"のこと書いた『貿易章程』ってのがセットでついてるよ)。

そうです、"貿易"のことをガッツリ盛り込んだこれが

日米修好通商条約(にちべいしゅうこうつうしょうじょうやく)

というやつ。

日本、禁断の貿易に、足湯レベルで突っ込みます。

しかも、この日米修好さん、のちに"不平等条約"と呼ばれるんですが、それを先に説明しておきましょう。

「日本でアメリカ人が犯罪やったら、アメリカ人が裁くだぁ!? 日本の法律で裁けないのキビーって!」

だったり、

「関税(物が国境を通り過ぎるとにかかる税だよ)を自由に決める権利がない!? 日本だけで税率決めらんないのジーザスだろ!」 

ってのが、日本がちょー不利とされてる有名な部分です。

ただ、これね、ハリスさんがムリやり押しつけたかと言うと、一概にそうとも言えず……。

ハリス「日本の法律、『10両以上盗んだら死刑!』とかなんすよね? さすがにヘビーすぎる……。私は仲間を守りたい!! アメリカの法律で裁くことを許してもらいた…」
岩瀬忠震「いいすよ」
ハリス「いいすよ!!?」
岩瀬「はい。日本は昔から外国のことは外国に任せる感じなんで。あと、なるべくそちらと関わらないようにしたいので、むしろそうしてください」
ハリス「……素直に喜べねーな……」

とか、

ハリス「貿易をするとなると、関税を決めないとですね!」
岩瀬「でた! 聞いたことあるけど、よく知らねーやつ! 欧米とのカラミなさすぎて! 教えてほしーっす!!」
ハリス「りょーかいです。ではレクチャーしましょう。まず輸入税というのは……」

といった感じでした。

外国と関わりたくない気持ちと、関税の知識の薄さが生んだ、不平等だったんですね(それでも、ハリスは、岩瀬さんと、井上さんていうもう一人の交渉人のことを、『2人は議論で私を悩ませることがあった。彼らが交渉人だった日本は幸福だ』と、ちょー褒めてます。彼ら、国際的な知識が乏しいのに、ロジックが合ってるか合ってないかだけで、ハリスに対抗したことになります。すごすぎる!)。

何はともあれ、条約の内容は整いました。あとは名前書いて、ハンコおせば("調印"ってやつね)、条約ケッテー! になるんですが……またまた大きな問題が。

この条約に大反対の声が上がって、恐ろしくモメちゃうんです。

それだけじゃありません。このタイミングで、もう1つ大きな問題が発生して、収拾のつかないトラブルに……。

予告します! 一応の収拾はつきます!